2017年5月29日月曜日

SS--『loop』 #2

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 みつほが彼と食事をして、一緒に部屋に戻ってきたのは昨日の夜二十一時頃だった。いつもより早かったので印象に残った。彼が疲れたから早く行ってゆっくりしようと言ったのだ。
 
 どういうつもりだったのか彼女は知らない。今思えば、落ち着いて話す雰囲気をつくろうと誘導されていたような気もする。ただ、その時のみつほは無邪気に彼の言葉を信じた。自分の部屋で彼がリラックスしてくれるのだ、と思って、嬉しいようなうきうきするような気持ちさえ感じた。

 まったく子供だと思う。嫌になるくらい。

 道すがら成城石井で買ったちょっといいワインと、よく分からないけどなぜか高いチーズをあけて、雑談した。ちょうどその丸机で。みつほは座椅子をすすめたけど、彼はクッションだけ借りて座っていた。

 いつもそうだった。彼は体勢を自由にしたいだけだと言っていたけれど、自分に対する気遣いだと考えていた。気持ちの良い椅子を彼女に使わせてくれる、なんて優しい彼!
どれくらい話していただろう?良い気分で酔っていたみつほは時間なんて覚えちゃいなかった。いつになく楽しく、気兼ねなく話していたような印象だけはある。だから杯が進んだのか。

 そういえば彼は相槌を打つばかりで、お酒もあまり手をつけなかったし、自分の話もしなかった。と思う。定かではない。後付けで、きざしはあちこちにあったのだ、と自分に言い聞かせたいだけなのかもしれない。

 気づくことはできたのに、気づけなかった。心構えをすることだってできたのに、しなかった。そう考えれば、自分のせいにすることができる。この期に及んで彼を弁護しようとする自分の影を、みつほは部屋に見ている。

 もしそうなら、馬鹿なことだ。嘲りを通り越して憐れみさえ感じる。救いようがない、という。

 たとえ本当に自分の推測通りで、少し気づけば予兆を察して準備することができたとしても、事実はそんなことはできなかった。みつほはふわふわした心地で、机に身体を持たせかけていた。顔を腕に乗せ、無意識に笑顔なんて浮かべながら。

 だから、そんなみつほの様子を見ながら彼が寂しそうに口にした言葉は、耳をふさぐこともできずに直に鼓膜を震わせた。

 「実は、婚約したんだ。もう会えないと思う」
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2017年5月28日日曜日

SS-『loop』 #1

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 目の前が真っ暗になる、などという言い回しがある。

 ひどいショックを受けて、世界がそのように見えるようになる、ということを表しているらしいけれど、そんなことあるわけない。桐原みつほはそう思っている。

 どんなに衝撃をくらって、心が弱っても、目を開けていれば風景は認識されてしまう。世界の終わりが訪れたように感じていたって。青くて澄んだ空はそこにあるし。差し込む陽光は遠慮なく網膜へ届いている。本当に暗くなったと思うなら、単にそれは瞼を閉じただけのことではないか。

 みつほは試しに目をつむってみた。暗くはなる。それでも光の存在は感じる。瞼越しに照明の明かりが差し込んでいるという感覚。まつげのあたりに熱も感じる。やはり、眼球を覆って光から守っている、という気持ちが拭えない。

 もしかしたら、万に一つの可能性で、ショックのあまり自分が目をつむったことにさえ気づかない、ということはあるかもしれない。反射的にそういう行動をとるというのは、まあ考えられなくはないだろう。車にぶつかりそうになったときみたいなものか。

 ただ、物理的な脅威以外にそんな対応をしていたら、大人としてきちんと生きられるとは思えない。怒られるたびにいちいち顔をしかめて、ぎゅっと光を防御する自分の姿をみつほは想像する。あほらしい映像が浮かんだ。おびえている子供みたいな桐原みつほ。実年齢26歳。

 「あほらし」

 みつほはわざわざもう一度口に出した。確かめるかのような気分で部屋を見る。みつほが暮らす1K、キッチンより視神経を通して脳へ生中継。放送休止はございません。

 そこそこお気に入りの部屋だ。家具も吟味して、身の丈にあったものをチョイスした。壁は割と地味だけれど、去年のヨーロッパ旅行で買ってきたアンティークの掛け時計がひとつ、おしとやかに時を刻んでいる。掃除だってマメにしている。

 でも、それらは今、妙にくすんでいるようにみつほには見えた。

 そして、生きているものはみつほしかいない。だから彼女の言葉に反応する存在はいなくて。音はこの部屋のウリのひとつでもある、しっかりした防音素材の壁に吸い込まれたようだった。彼女の胸に入っていってくれずに。

 みつほは認めざるを得なかった。視界が暗くなんてなっていないけれど。言い聞かせるみたいにこんなことをわざわざ考えるなんて。

 自分はどうも、昨日の出来事が少なからずショックだったらしい、と。


(#2へ続く)
                                   
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2017年5月25日木曜日

お口にチャック!

思ったことをすぐ口に出してしまいます。いい加減大人なのでだいぶコントロールできるようになってきましたが、何かに没入したりしてしまうともうだめです。

いちばん多いパターンは“実況”です。「あーめんどくさいなー」とか「ちくしょーこいつやってくれるな」とか。取り組んでいる物事の様子を説明してしまうんです。誰にだ。

次に多いパターンは“回想”です。「××すればよかったなあ」とか「こうしてくれればよかったのに!」みたいな。これはあまり言うのが危険なヤツです。うっかり相手に対する不満とかを述べてしまった日には、一巻の終わり・・・・・・。

言葉とは不便なものです。他人に向けて言ったつもりのものでなくても、うっかりおかしなことを言ってしまって、それが聞きとがめられたら大問題になることも。逆に、他人に向かって話しているつもりでも、全然相手に伝わらない――受け入れてもらえないこともあるでしょう。

 伝わらない虚しさと、伝わった(ような気がした)時の気持ち良さと、そのはざまで揺れています。ポエムでした。←ツイッタでやれ。

言葉が伝わっていない人の図。めだかボックスはおもしろかったなあ(小並)

2017年5月23日火曜日

微笑んだり涙を流す様な月並みな幸せ

 良い知らせがあったのでシュピーゲルの話が続きましたが、他のことも楽しんでいます!少し遅れましたが、先週の土曜に行ってきた分島花音さんのライブのレポートをしようと思います(^^)
 
 今回のライブはツアー”Blue Beast Biology ”のうちの一公演、名古屋SPADE BOXでのものでした。このツアー、最初の東京での公演はSOLD OUTになってしまったんですよね。それを見て、慌ててえらく早くにチケットを買ってしまいました。

 蓋を開けてみれば名古屋では当日券も出てしまいました。やはり東京以外だとそこまでではないんでしょうか。別に決してガラガラだったわけではないですよ!今回の会場だったSPADE BOXはキャパ400人ですが、8割ほどは埋まっていました。

 新しいし、駅からすごく近くて会場としては悪くなかったですね~。ただ、一番大事な音とステージが少し……。構造?のせいか設定?のせいか分かりませんが、楽器の音に広がりがないように感じました。ステージも客席から高くなっているうえに少し横に狭くて、位置によってはちょっと見づらい。

 名古屋の同じくらいのキャパだったら、エレクトリックレディランドがオススメです。ウケないと分かっている地元ネタ~。早く本題のライブ内容について書くべきですね!

 第一に、分島さんの魅力は歌唱力とトータルのセンスだなあと実感しました。歌手に必須の伸びやかな声と扇動力!一年ほど前にも東京のクラブクアトロでも観ているのですが、その時よりずっと良いと思いました。あの後ライブを何度もしたり、たくさんの曲を書く中で研鑽されたんでしょうか。声に張りがあり、またご本人がとても楽しんで、周りを巻き込もうとしているように感じました。

 また、分島さんは自分の世界をつくるのが上手いです。イラスト/衣装デザイン/そして曲――すべてが「私はこういう人間なの!」と訴えているようです。ある意味で“くせ”のある、でもそれがやみつきになるたぐいの“くせ”なんです。

 ま、こちゃこちゃと書きましたが、僕は一番好きな曲の「ツキナミ」と二番目に好きな「ノットフォーセール・フォッシル」が聴けたので満足です。他はもうなんでもオッケー!(じゃあなぜ書いた)いや、他にも良い点はたくさんありましたよ。バンドメンバーも息が合っていて、ドラムの池田さんの即興演奏なんてとても楽しかったし。あー書ききれない。

 とりあえずアルバムの「ツキナミ」と「luminescence Q.E.D.」を聴いてライブに行きましょう!そしたらみんなハッピー!!

物販でのCD購入者限定のポスター。カッコイイ!


2017年5月21日日曜日

”よう―あたくし様”


テスタメント3脱稿完了のお知らせがありましたね!

 このまま続報もなく出ないで、また5年くらい待たされるんじゃないかとさえ思っていました。なので、出ることが決まっただけでとても嬉しいです。

 僕がシュピーゲルを知ったのは、単行本3巻発売くらいの頃でした。白亜右月さんのシャープな絵柄に惹かれて手を伸ばして、クランチ文体のSFらしい未来的な感じにやられてしまったんですよね。イラスト買いかよ!言わない言わない。

 その辺の経緯はこの残念動画にまとめられています……。

【ニコニコ動画】【冲方1分動画】10年前の読みたい子どもたち【シュピーゲル紹介】

 締切最終日に勢いで作ってアップした動画なのでこの低クオリティなのです(-ω-;) もう気持ちだけですよ、気持ちだけ。最初の衝動を伝えたかったんです。夢というのは最初の衝動を持続させられた者だけが実現できます。(©二十世紀少年)若かった←たかが一年半前だろ!

 とはいえ、すっかり読み込んだ今では、シュピーゲルの魅力は苦境の中で自ら選択をする登場人物達の生きざまと格好良さだと思っています。

 冲方さんは災害/逮捕/大病といった様々な苦境の中でもめげず、真っ直ぐに進み続けて最終巻まで書き上げるという選択をしてくださいました。このこと自体も、シュピーゲルが・冲方さんが伝えたいメッセージなのではないかとさえ思います。

 冲方さんに賞賛と感謝をしつつ、自分がそれにどのような形で恩返しできるのか、今から考えながら発売日を待ちます。

2017年5月20日土曜日

シュピーゲル二次創作作品感想その2:神城蒼馬さん「ヴィントシュピーゲル弐 ウサギとカメのロンド」

 5月も後半に入ってしまいましたね。今月はどういう月ですか?僕にとっては忙しい月です。労働的な意味で。悲しい。

 あまりの忙しさに五月病になる暇もありませんでした。通り越してフロー状態です。ずっと今月が終わらずに続いて、時間面がこのまま止まってしまいそうな雰囲気。おっ、聞き慣れたワードが出てきたぞ?これはシュピーゲルの話題ですか??いいえケフィアです(古い)そうです、恒例にしたいと思っているシュピーゲル二次創作感想シリーズ!

 今日は神城蒼馬さん(ツイッタ:@sohma_k)の「ヴィントシュピーゲル弐 ウサギとカメのロンド」を拝読しました。(クリックで作品へ)



 え、なぜ弐からなんだ、って?うーん、ほら、弐からでも読めるって言われたからさ、ね??
・・・・・・すみません、去年の冬コミで隣のブースになったご縁で頂いたのを放置していただけですゥッ!(土下座)(頭をめり込ませつつ)

 途中までは読んでいたんですよ。ちゃんと感想ツイートもしましたし。でもその頃から名古屋ティアの準備が始まってしまって、ちょっと気持ちが・・・・・・。申し訳なさで恐縮しきりです。今の僕の気分といったら関さんに授時暦の誤りを指摘された時の春海にも劣りませんよ。もう湯呑投げつけられても何も言いません。無理がある?

 うーん、挽回の為に内容について触れます。一言で言って、大変良い二次創作でした!!

 神城さんはシュピーゲル二次創作界隈の重鎮(推測)で、シュピーゲルまとめwiki(クリックでサイトへ)をお作りになったり、色々な企画をされています。特にこの「ヴィント」の一巻は冲方サミットでも取り上げられたほどです!

 やはりそれだけ熱心に作品を読み込んでらっしゃるだけあって、原作の大小様々なエピソードをうまく膨らませています。この「ヴィント弐」の主人公のオリジナル特甲児童:鳴の正体が実はあの巻の×××だったなんて!

 敵も×××だとは思わなかったな。確かに言われてみれば、さらっと出てきてこの後どうなったんだ?みたいなキャラ、結構いますもんね。×××のところに何が入るかは実際に作品を読んで確かめましょう。クランチ文体の再現度も高く、原作を読んでいるような気分になれて、とても読みやすいですよ。

 なかなかそれらしく真似できないので、僕はクランチ文体を使うのは避けてきたんですが、こんな読後感を出せるならまたトライしてみようかと思い直しましたほどです。ガンバルゾ~。

 ぜひ読んでさしあげてくださいね!!

2017年5月16日火曜日

Straight Forward ( or not ?)

 最近自分の言うことにあまりにも一貫性がないかな?とか思っています。昨日la la larksの話をしたと思ったら今日はシュピーゲルの話、次の日はマンガの紹介、という調子ですから。古墳の話をしたこともありましたね。イミフメイ……。

 一応自分の中ではつながっているんです!ツイッターでもブログでも、自分が「おもしろい」と思ったことを書こうと決めています。

 「面白い」でも「オモシロイ」でもなく「おもしろい」なのが重要です。前者では海場社長あたりが「ふぅん」という言葉をマクラにしつつ言う感じですし、後者では森見登美彦風味が出てきてしまうと感じるからです。狸の親分が出てくるかもしれません。有頂天家族!

 おもしろいことは世の中にたくさん、それこそいくらでもあると思っています。ただ、多すぎるのも時には問題。せっかく見つけても忘れてしまうんですよね。最近特に物忘れが激しくなりました。道や名前がなかなか出てこなかったり、やすやすとダブルブッキングしてしまったり。年をとったか、くぅ~。

 だからこのブログやツイッタ、そして小説は、そういったおもしろいことを書きとめるためにやっている部分もあります。言葉で書き残しておけば忘れないし、埋もれてしまうおもしろいことを人に伝えることもできます。

 はかない、美しいもの、価値のあるものを少しでも留めようという努力が、絵や/音楽や/言葉を生んだのではないでしょうか。