2017年9月22日金曜日

la la larks アルバム発売お祝いイラスト&楽曲二次創作小説『loop-廻る私を置いて行く-』第1章公開!


こんばんは!今日は重大発表!!

先日からほのめかしていた原稿がひと段落つきましたので、冬コミまでの期間で行う新しい企画を発表させて頂きます!題して……


☆Newアルバム『Culture Vulture』発売記念☆
ロックバンド、la la larksお祝いイラスト
楽曲『loop』二次創作小説公開!


告知&お祝いイラストをサークル同志のガラスさんに描いて頂きました!
『ハレルヤ』のジャケットをオマージュさせて頂きました。内村さんと江口さんがお気に入り~

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円(まどか)みつほは至って平穏に今日まで生きてきた。
仕事は頑張ってこなし、周囲とも上手く楽しくやって。
ただ、ささやかなときめきに手を伸ばすと、そこには既に赤い糸が見えた。
ーーバカみたいだ。

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『loop-廻る私を置いて行く-』
作:川口 けいた/各章扉絵:ガラス


このブログでも前々からプッシュしているグレイトオシャレバンド、la la larksのニューアルバム『Culture Vulture』発売を記念して、お祝いイラスト
彼らの楽曲『loop』からインスピレーションを受けた二次創作短編小説
『loop-廻る私を置いて行く-』を公開します!

企画の発端はシンプルで、
待望の1stアルバム『Culture Vulture』発売に対するあまりの感動から、素晴らしいバンドであるラララを応援するために自分でも何かしたいと思ったからです。

僕は結成の年から、ラララのライブに年3~4回通っています。

ティーンの頃、その未来的で刃のようなサウンドと前向きな歌詞に大きな影響を受けたSchool Food Punishment。
その解散に打ちひしがれる中、ラララ結成を聞いてライブハウスに駆け付けた5年前の感動は今でも忘れておらず、
現在に至るまでどのライブも、楽しめないこと・不満を感じることが全然ありません。

文章の世界における、僕の心に食い込んだ楔が冲方丁さんとその作品なら、
音楽におけるそれがla la larksとその楽曲だと感じているほどの思い入れがあります。

いつも明日も頑張るための元気を与えてくれる彼らの楽曲とライブに対する僕の感謝を彼らに伝えたい。
そして彼らの存在をもっとたくさんの人に知ってもらいたい。
そのためには僕のフィールドである文章/物語によって、彼らの世界観を感じさせる作品を創るのが一番だと思いました。


そして出来上がった作品『loop~廻る私を置いて行く~』の第一章をこのブログにて早速公開します!
下方へスクロールしていってください。↓
少しでも楽しんで頂いて、ひいては着想元の楽曲『loop』に興味を持って頂ければ幸いです(^^)


※本作品はロックバンド、la la larksの楽曲に着想を得た二次創作作品です。
作中の表現は全て作者である川口けいたの責任によるものです。
楽曲の歌詞をオマージュした表現も現れますが、原曲に関する権利はアーティストに帰属します。
不適切な表現が発覚した場合には本作品の公開はすみやかに中止致します。



第1章.

 円(まどか)みつほの毎日は大変にせわしない。
 朝六時過ぎに起きると、顔を洗って食事をとる。食欲はないからジュースとヨーグルトくらい。ほとんど流し込む。

 その間に手は無意識にリモコンを探ってテレビをつける。そうはいってもじっくり見ているわけでもなくて、BGM替わり。切ってしまうと無音になって落ち着かないからだ。
 映像だってほとんど記憶に残らない。ただ、その時映っていたのは、どこかのテーマパークに新しく完成したアトラクションできゃいきゃいしている若い子たちの様子で。こういう時は少しだけ気持ちが引っ張られる。自分が失ってしまったもの、あるいはそもそも始めから持っていなかったものを見せつけられるからだろう。

 そういう雑念に囚われるのは止められないけれど、いい加減大人なみつほは対処法も心得ている。ジュースを一気飲みして一緒にお腹の奥へ流し込んでしまうのだ。そしたら化粧をする。せいぜい十分くらいだ。とてもそれ以上の時間はかけていられない。そんな暇があったら寝ている。

 買ってからだいぶ経ってしまったスーツに着替えてパンプスを履いたら、カバンを手に取りドアを開ける。マンション二階の廊下から見える空にはなんだか色が濃い雲が出ていて、どんよりしていた。季節は秋の入りで、風もなんだか涼しくなってきたような気がする。雨が降ってもおかしくはない様子。
 「天気予報、なんて言ってたっけ」
 呟く。もちろん思い出せない。嘆息するとみつほは階段へ歩いた。



 家から最寄り駅までは徒歩十分くらい。それなりに栄えている街の郊外だから、通りには同じく通勤目的と思われる人の流れがある。ホームだってそこそこ埋まっていて、電車内も満員というほどではないが座れる可能性は高くない。だいたい立つことになる。

 車両の奥の方に押し込まれたみつほはぼんやり車窓からの風景を眺めた。だらだら流れていく。これは無心で耐えるべき時間だ。本を読んだりスマートフォンのゲームをしたりしていた時期もあったが、どれも長続きしなかった。目的地まででくたびれて、虚しくなってしまうのだ。それではあとが続かない。

 三十分ほどでようやく車両から吐き出されて開放感を感じていたも昔の話。降りた先も結局人混みだから。今やとても疲れているか、ある程度疲れているか、の差しかない。
駅から少し歩けば、みつほが勤めている街なかの銀行、メガバンクの支店が現れる。名前を親戚や知り合いなんかに教えるとへぇ、という顔をしてくれる。そういう時の気持ち良さはまだ捨てられていない。同時に、何も知らないくせにと冷めたようにひねくれる自分も抱きながら。

 裏口から行内に入り、言った。
 「おはようございます」
 最初の挨拶だけはなるべく大きな声ですると決めている。そうしたら息と声と一緒に、それまで考えていたことも気持ちも出て行ってくれるような気がするから。
 「おはようございます、円さん」
 言いながら近づいてきたのはみつほの直属の後輩の畠山だった。
 彼は入行三年目で、入った時からずっとみつほが指導しながら一緒に法人営業を行っている。いかにも今時の男の子という感じで、もじゃっとした中途半端な髪型が内心いつも引っかかっている。

 「〇〇〇さん、そろそろ僕が担当してもいいっすか」
 いきなり不躾にそんなことを言ってきた。名を出したのは、最近業績が好調なメーカーさんだ。この間社長にお会いした時の様子がぱっと思い浮かぶ。活気に満ちた表情だった。みつほが新人時代最初に任された企業の内のひとつでもあって、辛い時も知っている身としては自分まで元気になるような気がしたものだ。
 それをあんたみたいな下っ端によこせと?大体、いいっすか、ってなんだ。
 
 「君じゃまだ無理」
 刺々しさに満ちた言葉は心の中に留め、デスクを整えながら顔も見ないで言ってやる。畠山はあっ、はぁ、みたいな不明瞭な返事をした。不満げな感じだが反論するでもなく、みつほの隣の自らの席に座ってしまう。
 「なんで急にそんなこと言い出したの?もっと経験積まないとダメに決まってるでしょ」
 必要もないのについつい問い詰めてしまう。この男のこういう歯切れが悪いところが気に入らないのだ。言いたいことがあるなら言え、といつも思ってしまって。

 「いえ、その、僕ももう円さんのご指導長く受けてますから、いいかなって」
 立ったまま見下ろした先の畠山は伏し目がちにもごもご答える。
 「根拠ないじゃん。だいたい最終的に決めるのは私じゃないんだから。私たちの上司だよ、ジョーシ。本気で頼むなら、推薦してくださいって言うべきでしょうが。そもそもいいっすかって何よいいっすかって」
 あっさり心の声が漏れる。畠山だからまあ良いだろうと思い直す。当の本人はまだうつむき、神妙そうな様子で聞いていた。とはいえいつまでも気にしている暇もなく、デスク上で鳴り響いた電話がみつほの耳を引っ張った。

 「円さん、△△△の□□□様からお電話です」
 離れた場所から外線担当の子が言っている。すぐ電話主の顔が思い浮かぶ。担当する顧客の一人で、縁起物のだるまみたいな丸っこい人だ。無理を要求してくるわけではないが、朝早くでも夜遅くでも気になることがすぐにかけてくる。面倒だなと思いつつも、頷いて受話器を取る。
 「お電話かわりました円です。はい、お世話になっております」
 そう言っている時にはもう畠山のことなんて忘れていた。



 電話の目的はある手続きに必要な書類が欲しい、というものだった。みつほの課が行う業務ではない。別に担当がいるし、調べればそちらの連絡先だってすぐわかるはずなのだけれど、慣れているからというだけで何でも頼まれる。小間使いのようだ。そういう仕事だということはもう身に染みている。

 書類をファクスしてやって話が済むと、ちょうど朝礼の時間だった。
 「では皆さん、集まってください」
 その声にみつほの胸がちょっと弾む。『彼』が立ち上がり、声をかけていた。
畠山など、同僚が集まってくる。みつほも近寄った。スーツが着崩れていないか確かめながら。
 「朝礼を始めます、おはようございます」
 『彼』が言い、皆が挨拶を返す。『彼』はにこりと微笑んで、言葉を続ける。いつものことだし、隣の課でも同様にしているのだけれど『彼』がするとまるでドラマの一場面のように思える。
 「今月の目標達成率ですが……」
 話を聞くのもそこそこに、みつほは不審がられない程度に『彼』を見ている。
 
 『彼』は営業部、みつほが所属する課の課長だ。一緒に働いて、今年で四年目になる。最初は他の支店から移ってきた単なる先輩だったのに、とんとん拍子に出世していまや上司になってしまった。シンプルに仕事ができるのだろう。素直に尊敬するし、素直に格好良い。
 身長は一八〇㎝はある。テニスが趣味ということで、体つきも良い。適度に日焼けしているのも爽やかだ。知り合ってからずっと見た目が変わっていないのではないだろうか。みつほより六歳も年上なのに。
 「以上です。今日も一日頑張りましょう」
 『彼』は身を翻す。他の同僚が戻っていく中、みつほは進み出た。

 「課長、今日の昼の会食ですが、課長はいらっしゃいますか?」
 『彼』に声をかける。上司だから職場ではもちろんこのような話し方しかしない。たとえ心の中でどう思っていて、どう呼んでいても。
 席につこうとしていた『彼』は動きを止め、みつほに目を向けた。

 「その件か。うーん、迷っていたけれど、外為からも一人伺うんだよね?」
 朝礼の時よりは砕けた調子で話してくれる。慣れた仲として扱ってくれているのだろう、とみつほは考えている。そう思っていた方が嬉しい。
 「そうです。なので、ウチからは私を入れて二人、向こうもお二人です」
 「ならやめておくよ。今回は打ち合わせだし、俺は最後の契約の時に出向く」
 「わかりました」
 「円くんなら安心して任せられるしね」
 最後にもうひとつ微笑んで『彼』は座り、パソコンに目を移した。その笑顔はとどめのようで、うっかり正面から見てしまったみつほは嬉しくなってしまうのを抑えられなかった。

 返答は実は予想していたものだった。何も言われなければすたすた出かけてしまったって良かったのだ。それをわざわざ確認した理由はもちろん他人には言えない。
 心なしか足が軽くなったように感じながら自分も席に戻ろうと振り向いたら、畠山と目が合った。色白の肌と中途半端な髪を見せつけられる。子供っぽい。どうかしたのかと眉をひそめそうになった時には、もう畠山の目線は外れていた。おかしなやつ。

 九時、営業開始を知らせるチャイムが鳴る。個人のお客さまが入ってくる。みつほは座りはせず、デスクに置いていたカバンをまた手に取った。
 「畠山くん、私もう出ようと思うけど」
 「あぁ、はい。午前中はいます」
 あぁ、はいって。なんだその返事は。これだから院卒の実家暮らしは――あまり良くない悪口が頭によぎる。
 「オッケ。よろしく」
 今度は我慢してそれだけ言い残し、入ってきた裏口からまた出て行った。横目で見れば、畠山はお行儀よく座りなおしてパソコンを叩いていて、『彼』は難しい顔で何ごとか部下に指示していた。



 外に出て、歩きながらスケジュールアプリをチェックする。今日は午前と午後にアポイントがひとつずつと、先ほど『彼』と話した昼食兼の会食が予定されていた。
 どれも資本金一億円以上の企業の管理職が相手で、会食の方に合流する行員もみつほより役職は上だ。こちらは二重に気が抜けない。せっかく良いお店に行けても、きっと食べた気がしないだろう。もったいないなと思いながら、急ぎ足でさっき出てきたばかりの駅へ戻っていく。

 みつほがこういう生活をするようになってもう六年になる。大学の商学部をストレートで出て、新卒で入行してからずっと。
 まあ悪くないと思う。不満が全く無いわけじゃないし、忙しい時や大変な時もあるけれど、やりがいはあるし、頑張った分評価もしてもらえていると感じる。さっき上司が、『彼』が言ってくれたように。それはお給料にも現れていて、入行当時は行員用の寮住まいだったけれど、今は職場に近いマンションに移ることができた。しかもお風呂とトイレが別!
 電車に乗り込むと、さっき見せられたのと同じ風景がまた流れていく。夜帰れるようになったらコンビニに寄って、何か甘いものを買おうと決めた。お金はあるのだから。



 「ホント楽しい毎日だわ」
 同期の女の子はそう言うと、グラスに入ったカクテルを一気に飲み干した。
 みつほはウーロンハイをちびちびやっている。消え去ったカクテルはそういう飲み方の似合わないオシャレな名称だったと思ったが、指摘はしなかった。

 あくる日、みつほは同じ支店に勤める同期と夕食兼の飲み会に来ていた。職場の近くの居酒屋。
 この同期は店頭で個人のお客さまを担当している。いわゆる窓口の人、だ。外を出歩くことも多いみつほとは全然違う仕事をしているし、職場での扱いも異なるけれど、みつほは仲良くしていた。仕事の内容や扱いが全然違うというのが助かった。その人の人間的な良し悪しだけ考えれば良いのだから。

 同じ課の同僚とは実はそんなに仲が良くない。多く話すのは直属の上司である『彼』と、話して指導せざるを得ない畠山くらい。仕事の割り当てとか、上からの評価とか、余計な雑音が耳に入ってしまって嫌なのだ。

 その点みつほはこの同期のことを尊敬していた。窓口の仕事はやりたくないし、そもそもできないとさえ思うからだ。一日に千差万別の、時には無茶なことを言う知りもしないお客さんを何人もにこやかに相手するなんてとても無理。
 「ね、みつほちゃん、ホント毎日楽しいよねぇ」
 「絶対そう思ってないでしょ」
 わざわざ繰り返すので、みつほは察して言ってやる。とたんに同期は机の上に突っ伏した。
 「はい嘘です全然楽しくなんかありません。毎日おじさんおばさんおじいさんおばあさんの相手ばっかりでうんざりです~!」
 相当酔っているようだ。だから一気飲みなんてしなければよかったのに。
 「うんうん分かるよ。私も毎日おじさんにいいように使われて大変だよ」
 慰めるつもりで背中をぽんぽん叩いても、もぞもぞするばかり。

 「ああわたしも出会いが欲しい。颯爽と現れたイケメンの一流企業社員にお仕事終わったらお時間ありますかとか言われたい。みつほちゃんじゃなくてイケメンにぽんぽんされたい~」
 「あはは、ひどいなあ。出会いなら私だってないよ」
 苦笑すると、同期はいきなりがばっと顔を上げた。あまりの勢いにみつほはちょっとのけぞりそうになった。
 「そっちはあるでしょ!」
 「え?どういうこと?」

 突然のことに理解が追いつかなかったみつほは何も考えずにそう問い返した。
 だからその後の、知りたくもなかった事実をまともに聞いてしまった。
 「みつほちゃんの上司、結婚するじゃん」




ーー続く(10月第一週公開予定)

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